しかたない

歩けないのなら、僅な行き帰りを車椅子にした。
ベッドとトイレの間だ。
頭が下がり過ぎている、上がらない、足が出ない。
今まで、出勤前にトイレに歩いて連れて行くことが出来たのは、なんとか足が動いたからだ。
今は足が出ない、幾度も後ろに倒れそうになる。
頭が胃腸より下にあるからもどすことすらある。
ふらつくとSさんは身体を預けてくる。
もう、自らバランスを取ろうという意志は無い。そうとも感じてしまう。
今まで、この先に起きることを考えてSさんが悲観したことはない。
足がこうまで動かなくなれば、いずれ思考・感情・記憶に影響も出てくる筈だ。
それがいつからなのか分からない。
今まで何を思い、何を支えにして来たのかとか、子供や孫に対する今の思いとか、肝心なことを今こそ聞かないでいいのかなと思う。
いや、それは酷というものかもしれない。